「液体料理」体験談。

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先月旧友と京都の予約制Bar”nokishita711”にて「 liquid cuisine / 液体料理 」なるものにチャレンジしてきた。第一印象はなんともまあ日本語直訳!感のある名前。*後ほど理由は判明する。

元々友人が店の前を通りがかったらしく「気になってるBarがある」とTwitterに公式サイトを提示していたことが始まりだった。知らない人はサイトを是非覗いてほしいのだが、まず目に飛び込んでくるイメージビジュアルが魚の刺さったグラス。ミントを咥えた鮎(?)が虚空を見ている。ただ事ではない。

liquid cuisine = 液体料理
肉、魚、虫、野菜、果実、草木。
あらゆる素材の味わいを液体として抽出しカクテルとする
それがセキネトモイキの考える『 liquid cuisine / 液体料理 』です
『酒 + 何か』というカクテルの定義を越え
あくまで主役は素材であり、酒は素材の味わいを液体にするための媒介である
というのが『liquide cuisine / 液体料理』の考えです

nokishita711

正直な話半分くらい、というか4分の3くらいは「美味しいものを食べに行く」というよりは「物珍しいものを食べてみたい」という気持ちだった。店内は結構暗めな雰囲気で、2人で予約したが別の2グループと同時にコースが開始するシステム。こちらも向こうも全員女性だった。少し緊張しながらも席について既に設置されていたお品書きを読む。渡されたおしぼりからは強めの良いにおいがした。強めの、と表現して割とその通りではあるが決して嫌な臭いではない。嗅覚が強い人には刺激的という意味。

おしながき。虫養い、所謂おつまみはカクテルを作る際に出るガラや搾りかすを使用しているが、俗にいうサステナビリティに依拠してカクテルを作っているわけじゃなく、私たちが奪うすべての命の存在の尊さに報いる仕事を積み重ねたいと持っていますとの記載がある。なるほど。ニッチなジャンルだと思うけどそういう層に媚びてるわけでもなくごく普通の”いただきます”と”ごちそうさま”の精神。横の英訳は~we’d like to pay our reapects to all life and existance.になっていた。

今回の卓は全員日本人だったけど、普段は外国人の客の方が多いそう。

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折角なので詳しく書いていこうと思う。その場では良い感想しか口に出さなかったが驚くほど美味しいものと正直口に合わないものがあった。そこはまあ個人的な好みの問題として嫌味なく受け取ってほしい。

ちなみに私は嫌いな食べ物が無い。好きな食べ物は甘くないチーズケーキとダークチョコレート、果物で言えばいちごと桃と梨とライチ(全部水っぽい)。野菜で言えばセロリだ。しいて言うならセロリは好きなのにパクチーは嫌い寄り。虫は食品のカテゴリーには含まない。酒も飲めるしお茶もたまに点てている。

”1つ目のカクテルと虫養い”

(カクテル)白味噌、鰹出汁、野菜のクズ、山葵、煮詰めた白ワイン、ジン

(虫養い)最中、酒粕の生麩、山葵、おかか

雰囲気的にはとろみの強い甘酒の様な舌触りで美味しかった。さっぱりしつつもこっくりとした味。ほのかに感じる山葵が全てのおいしさを引き出している。「この材料の組み合わせでどうすればこの味になるんだ?」という驚きも詰まっていて面白い。

最中も酒粕と聞いて身構えたが酒粕はあまり感じられず、もちもちした生麩とおかかと山葵の風味が美味しい~!何個でもいけちゃう。カクテルとの組み合わせもバッチリだった。なんだなんだ、”怪しい料理店”的な身構え方で入店したけど、思っていたイメージと違って驚いた。

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”2つ目のカクテルと虫養い”

(カクテル)香炉灰、ウド、菊芋、ウコン、菊花、芋焼酎、ジン

(虫養い)菊芋と菊花の精進パンケーキ

このカクテルは人を選ぶかもしれない。香炉灰を食したことが無いので飲料として馴染みのない味ではあるが普通に美味しかった。嫌な感じでは無いし、好きな人はものすごく好きだと思う。ラベンダーの飲料やチョコミントを好んで食べる人向けだと感じた。どちらも食したことはあるし嫌な感じはしないけど私は好んでは食べないというイメージに近い。菊は香りが強いと思っていたが、そうでもなく甘味はウドからきているとのこと。ウドの甘味については店主も驚いたというエピソードを聞かせてもらい面白かった。美味しい。確かに、想像がつかない。笑

精進パンケーキという名前だったので味が薄いのか?と思ったらむしろ塩辛かった。つまみにしてもちょっと濃い。生地はもちもちしていて美味しかった。

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”3つ目のカクテルと虫養い”

(カクテル)新じゃが、青のり、バナナ、金木犀、生酛純米酒、ウィスキー

(虫養い)新じゃがと納豆のゼッポリーニ

新じゃがは加熱せず生のまま発酵させて使っているそう。バナナと純米酒が強くて、青のりとウィスキーはあまり感じることが出来なかった。少し酸いけど、基本的にはバナナの味が強いので美味しい。

お品書きを見てその場が「ゼッポリーニってなんだ?」となり一昨日言ったイタリアンカフェの突き出しで同じものを食べていた私は「イタリアの揚げパンだよ」と得たばかりの知見を披露する機会を頂いた。ゼッポリーニも、その下にひかれた茶葉のチップスも美味しかった。

ゼッポリーニは揚げてあるから納豆の風味はあまり感じなかった。もちもちしてておいしい。茶葉のチップスは周りの女子から「お洒落だね」と好評だった。

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”4つ目のカクテルと虫養い”

(カクテル)鹿肉、牛蒡、苺、黒麹、京番茶、煮詰めた赤ワイン、貴醸酒、ジン

(虫養い)タコス、鹿、牛蒡、カカオ

「このカクテルは賛否両論あるかも」と店主から前置きがあった。なにしろ”鹿肉”を飲むので。と言っても見た目は透き通った血液の様なカクテルだった。美味しい。クセがあると言われたら確かにクセはあるけれど、苺と赤ワインの酸味がすごく絶妙なバランスをとっている。これは出されたカクテルの中で一番好みだった。まず見た目が美しい、そして味。この材料を使ってこのバランスを取るという行為に努力を通り越してものすごい執念を感じた。

一方で虫養いは出された中で唯一私の口には合わなかった。上に載っていた牛蒡は美味しかったが、下の鹿とカカオが酸味と苦みとクセが強すぎた。生地の見た目はピンクでかわいかった。後述するが、液体料理には”レモンやライムを旬の時期以外は使わない”や”砂糖の使用は極力控える”などのこだわりがある。故にいろいろ難しいのかもしれない。確かに甘味の虫養いとしてまとめてしまう方が美味しくて手軽なのかもしれない。味のプロから見れば素人の戯言かもしれないが。

うま味、塩味、甘味、苦味、酸味、五味のうち甘味は他のどれとも相性がいい。一方で扱いが最も難しいのが酸味。次いで難しいのが苦味。

”なぜ5味なのか?”

うま味、塩味、甘味、苦味、酸味と聞いて、辛味は?と思ったことは誰でもあるかもしれないが、辛味は実は味蕾に受容体が存在するもの以外で感じる体性感覚に含まれており感覚から来る味覚(痛覚)となる。インドでは6味に含まれているなど場所によっても違いがある。

その場ではつい「変わった味だね」という感想を言った。嘘はついていないとは思うが。笑

勿論好きな人も居ると思うので、あくまで個人の感想。

味覚と好みのつながりで言うと私はTRPV1受容体の数が恐らく普通の人より多くたまに好んで激辛麺を食すことがあるのだが辛ラーメンの事を真剣に美味しくないと思っている。所謂辛いだけのうま味の無い物体。だが世間一般的には好んで食べている人も居るので、そういうものだと思う。

ゆったり話しながら飲んでいたらあっと言う間に最後になってしまった。

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”5つ目のカクテルと虫養い”

(カクテル)馬告、鯖、台湾パイン、みかん、スパイス、麦焼酎、ウォッカ

(虫養い)鯖とスパイスのヌガーグラッセ、一休寺納豆、カカオのサブレ

馬告(マーガオ)は台湾のスパイス。見た目は普通の胡椒の実。やはり果物が入っていると飲みやすい。つぶつぶした果実もまた面白かった。不味くは無いが、2つ目と4つ目のカクテルが凄く美味しかったのと、イメージの近い3つ目のカクテルの威力が大きく印象がそっちに持っていかれたというイメージ。単にワイン系が好きなのか(日本酒が一番好きだけど)、酸味がワインと相性が良いのかもしれない。鯖は探したけどそんなに主張せずパインとウォッカが強かった。

虫養いは満場一致で美味しかった。イメージ的にはスパイシーなチャイのアイスという感じ。これは何から何まで完璧にセンスの良い味付けだった。鯖とスパイスとアイスという一見常人の通らない組み合わせの道にこんな宝石が眠っていたとは。これは本当にいろんな人に食べてほしいくらい美味しかったし、驚いたし、その場にいた誰もが口をそろえて美味しいと言っていた。

中国式茶会

最後にみんなでお茶を囲んだ。茶会は中国式。茶器にもこだわりが詰まっていた。

あれが美味しかったこれが素敵だったと感想を伝えたり店主の体験を聞いたりした。バーテンダーとしてものすごく味について勉強してきた方なんだと感じた。中国式の茶会はまず洗茶と言ってお茶を熱湯で洗う。茶葉を開かせるためだそうだ。入れ方はあるが、決まった飲み方や礼儀作法は特になくフランクにそれぞれ喋りながら楽しむ。非常に面白い締め括りだった。

店内には所狭しと発酵中の瓶が置かれ、割れた般若のお面飾りやテーブル中央に置かれた歪んだ花瓶に店主の素敵なセンスを感じた。液体料理という不思議な料理名は、元々の”Liquid cuisine(リキッドクイジン)”という名前をそのまま日本語にしたためだった。店主さんはとても味に詳しく、話し方が丁寧でおおらかな人。季節でコースの内容が変わるそうなので、また是非予約してみたい。

”液体料理の特徴/Characteristics of Liquid Cuisine”

・お酒が主役ではなく食材が主役/We focus on seasonal ingredients,not on liquor brands.

・既製品のリキュールやシロップは使用しない/No ready-made liqueurs and syrups.

・旬の季節以外レモン、ライムを使わない/No lemon and lime except when these are in season.

・トニック、ジンジャーエールなどは使用しない/No mixers(tonic,ginger-ale,etc.)

・砂糖の使用は極力控える/No sugar,honey,any surup

・発酵による複雑性のある酸味と甘味/Complex acidity and sweetness by fermentation

・やたらめったら氷で冷やさない/Don’t ice cocktails excessively

・ドロッとした液体では提供しない/We don’t like thick liquid,we like thin liquid

・低アルコール/Low alcohol content

・カクテルを作る際に出る絞りかすなどを虫養いに/Snack is made from the rest of filtration and throwing out things

nokishita711

BAR, 液体料理

Posted by AMAAI