ドカ食い気絶部論者
スーパーへ日々の買い出しに行き、なんとなく朝ごはんにバターレーズンスティックという6本入りの菓子パンを手に取った。
6本、というのは長細い形状をしているため、本来菓子パンに使うべき6つという助数詞よりも適切であると思ったゆえ。
キリが良いので3本食べてあとは冷凍しようと思った矢先、パンの入れ物は空気を入れるための透明な袋になってしまった。
おかしい。手を付けた記憶が無い。食べて味わった記憶も無い。
商品棚から買い物かごへ、そして買い物袋から家の机の上に移動した時点でこのパンを観測していたのは私一人。
ということは私の記憶になければ、パンは封を切って机の上に置かれた時点から私が空の袋を確認するまでの間に、どこかに消えてしまった。
もしかしたら1本目を食べる直前に、すべての物理法則を無視して3本に圧縮されてしまった可能性がある。
それなら私は2本目に手を付けていたところまでの記憶があるので、当初の予定通り3本だけ食べたのだろう。残り3本は圧縮されてしまったのだから、当然手元にはない。
けれど圧縮という条件だとカロリーは当然6本分になってしまうので都合が良くない。
ならば食べる前に消えてしまった。
一体どこへ?もしかしたら、人間の持っている身体と脳では観測できない状態になってしまったのかもしれない。
そう例えばとても小さな原子になったとか。
その場合、特殊な条件下で観測することはできたとしても元のパンの状態に戻すにはどうすればいいのだろう。
わからない。私はとても無力だ。
ゆったりした空間で珈琲を入れながら窓の外を眺める事しかできない。
いいや待てよ。そうだ、あともう一つ可能性があった。
もしかしたら記憶にないだけで6本すべて食べてしまったのかもしれない。
なんて恐ろしい可能性なんだ!私は4本目のパンを手にした瞬間に、触れてはいけない人間世界の禁忌の知識に触れてしまって、人間よりも上位の存在に4本目から6本目までの間の「不都合な記憶」を消されてしまったのだろうか!
なんてことだ!
だとすれば4本目から6本目の間にいったい何が…ああ…なんだか眠くなってきた…。気づいてはいけなかったのか…?まさか…そんな…。